アジアンビートカンケリキッズ

アジアの子供はほとんど裸足だ

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0416

[note] 五つ目

困った。いつも決まった時間に送り込まれてくるエサが最近滞っている。オレがそのエサをどうするのかと言えば、ときには自分で食べ、ときにはそびえ立つ壁の隙間に埋め込んでいる。とても単純な作業だが、エサが来なければオレの生活は成り立たない。たまに気が向いたときには、隣りにいる変な生き物 ─そうとしか言いようのないくらいオレとは違った生き物だ─ にエサを与えることもあるし、逆に譲ってもらうこともある。お互いに同業者なのだと本能でわかっているからだ。だが肝心のエサが一切送られてこないのではどうしようもない。お隣さんも途方に暮れている。

エサを送り込んでくる奴を、オレは五つ目と呼んでいる。太い五つの首の先に目がついている生き物だ。五つ目には二本足や三つ又の子分がいて、そいつらを使ってエサを運ぶ。五つ目のお陰でオレたちはとても助かっているのだが、なぜ奴がそんなことをしているのかはわからない。実際のところ、オレも自分自身がなぜこんなことを繰り返しているのかもわからないので、考えないことにした。

いつのことだったか、オレは目の前の白い壁にエサを塗りたくりながら、このルーチンワークを止めたらどうなるのかと考えたことがあるのだが、もしそれで死んでしまったら馬鹿馬鹿しいので無心で続けることにした。それからは、オレの一生にとってそのことについて考えることはタブーであるように思えた。今は本当にそんなことをしなくてよかったと確信した。あんな単純な作業でも、それができないだけでこんなに退屈になってしまうのだ。幸いにして生きてはいるのだが、いかんせん何もすることがなく、ただ薄暗い世界を見回すだけだ。このままでは発狂してしまうかも知れない。

やがて、エサが来なくなってどれくらいの時間が経ったのか、そんなこともわからなくなるほどに、オレは憔悴した。心は磨り減ってしまっているのに、身体には何の異変もないこともまた怖ろしかった。お隣さんは動かなくなってしばらく経つ。おそらくもう生きてはいないだろう。オレもさっさと死んでしまいたかった。

自暴自棄になり、崖下の深淵に飛び降りようかと思ったとき、ふいに世界に光が差した。あまりに突然だったために、それが何を意味するのかさえ気付かずにいた。だが、光の中に忘れもしない姿を見たとき、オレの心は生き返った。そう、五つ目だ。全身に力がみなぎり、破裂しそうな勢いでオレを踊り狂わせる。オレは息を切らしながら五つ目を見上げ、エサを求めて手を伸ばした。そして自分の心が崩れ落ちる音を聞いた。そいつは五つ目ではなかったのだ。

いくら数えてもそいつには四つしか目がない。首は確かに五つあるようなのだが、一番細く短い首が、前よりもさらに短くなっている。どういうことなのか。五つ目とは別の奴のなのだろうか。それとも奴の目が消えてしまったのだろうか。どちらにせよ、奴がエサを与えてくれるに違いない。そう期待するしかないオレは、その五つ目、いや四つ目に近付くことにした。幸いなことに四つ目は白い壁に首をもたげている。登り慣れたその壁の頂上で、初めて奴の目を間近に見た。それどころか触れることさえできた。

奴の首が動いた。そのことがわかったときには既に、オレはあの薄暗い世界を飛び出していた。オレは四つ目にしがみついたまま、オレがいた世界を見下ろしていた。それはどうやら穴のようになっていて、もっと大きな何かの一部らしい。あまりに巨大でどういうことなのか想像もつかないのだが、見たままを言えば、それは大きな五つ目だ。長い首が二本、短い首が二本ある。そしてオレがいた世界、つまり穴は、首とは反対の方向についた丸い首に開いている。その丸い首は赤黒く染まっていた。

オレが大きな五つ目を見下ろしていたのは、ほんの少しの間だった。オレがしがみついている四つ目が動いたからだ。四つ目はオレを振り落とすかのごとく首を振り回した。やがて奴が落ち着いた場所には、あの穴があった。やはりオレが生きる世界はこの穴だ。今となっては小さな世界だとわかってしまったのだが、外の世界はあまりに広大で、オレは生きていく自信がない。この穴にいれば、またエサを貰えるかも知れないのだ。エサさえあれば、住む世界などちっぽけな問題だ。

オレは再び薄暗い世界に戻った。外に出ている間に中の様子は少し変わっていたようだが、また白い壁の近くに居座ることにした。相変わらずお隣さんは変な生き物だし、やることといったらエサを食べるか埋めるくらいだが、それがオレにとっては掛け替えのないものなのだ。あの絶望の日々は過ぎ去り、オレは平穏を取り戻したのだ。それ以上何を望むというのだろう。

そして今日もまたエサの時間がやってきた。穴の入り口が開き、光が差し込む。今ではこの瞬間が何よりも愛おしい。穴を覗き込む四つ目の首が絡みついている、大きなドス黒いものに見覚えはなかったが、エサを運んでくれるのなら何だってかまわない。エサを拾う準備をして、再び四つ目を見上げたその瞬間、穴の中が波打った。

いつか見た赤黒い色が広がる中で、奴の首に五つの目を見たとき、オレはこの穴との別れを悟った。

あとがき

上の話はちょっと前にノートに書きとめたものです。とくに話題もなかったので、ちょっと直して載せました。

ネタバレすると、五つ目は手、穴は口、そして“オレ”は口の中の虫歯菌っぽいものです。菌が巣くってた人間が死んで、今度はそいつの口の中を探った人間の口に移り住む。でもまたその人間も死ぬって話。二人目は指が一本ないんでそっち関係の人だと思う。なんか怖いねー。

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  1. 2006/04/16(日) 02:40:03|
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